ほりクリニック

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ヤドリギ療法とは

癌の統合療法におけるヤドリギ抽出液注射療法

ヤドリギ療法


 宿り木という植物は、その名の通り他の植物に寄生して成長します。具体的には、ある種の鳥が、その実をついばみ、木の枝に糞をし、その中の宿り木の種子から、芽が出て、根(寄生根)を様々な宿主の木へともぐりこませ、栄養分を吸い取りつつ、数年もかけてゆっくりと成長していきます。成長するにしたがって、大きくなり、寄生された木は、次第に弱まり、腫瘍に取りつかれた人間のようなプロセスに陥ることもあります。こうしたことから、宿り木は、自然界における腫瘍形成と相関し、人間内部の腫瘍形成に対応するとみられています。行き過ぎれば、人間同様、寄生された宿主の木が枯れることもあり、これが、宿り木が嫌われる理由の一つでもあります。

 創始者であるルドルフ・シュタイナーは、直観的観察によってこの植物から癌に有効な治療薬が開発できることを見抜きました。その後、様々な研究によってこの直観が如何に正確であったかが科学的にも明らかになりました。
 すなわち、宿り木には、二群の毒性成分が見つかっています。
 一つは、ビスコトキシン。これは、この植物の末端、特に葉に向かって周辺に行くほど高濃度に含有し、寄生根には含まれません。分子構造は、蛇毒にきわめて類似し、細胞分解的作用(実際に癌細胞を溶解する)をもちます。
 一方で、宿り木レクチンは、寄生根に最も高濃度に存在し、年を経るにつれ増加します。葉にはわずかしか存在しません。ひまし油(トウゴマの種子から抽出)の植物レクチンに近く、細胞分裂を抑制し、癌細胞の成長を阻害します。

処方における宿主の重要性

 アントロポゾフィー医学において用いられるヤドリギ製剤では、宿主の木が決定的な要素を持ちます。それぞれの注射薬の名前は、宿主がどんな木であるかを示しています。Mは、”malus”(ラテン語のリンゴの木)、Pは、“pinus”(ラテン語のスギの木)、Aは、”abis”(ラテン語のモミの木)、Quは、ラテン語の“quercus”(樫)といった具合です。ヤドリギ療法において、宿主の木がなんであるかが、様々の部位にできる癌のそれぞれに対して、効果に大きな違いをもたらします。夏と冬に収穫されたもの、雌の木になるものと雄の木になるものは、それぞれ別に集められ、それぞれの会社による独特の方法で加工され、最終的に混合されます。この抽出液は、患者さんそれぞれの注射に対する反応に応じて容量を増やしていきます。したがって、アントロポゾフィー処方剤は、とても個性的、個人的に各人各様に投与されるので、ジェネラルスタンダードといったものはありません。
ヤドリギ製剤は、ドイツの医薬品、医療製品等、国立研究所により認可されています。

植物としてのヤドリギ

 1400種類もの植物が、広い意味でヤドリギというグループに属します。しかしながら、抗癌薬として用いられるヤドリギは、Common Mistletoe(Viscum album)だけに限定されます。これは、落葉樹にも針葉樹にも成育します。
特に、ポプラやリンゴの木によく寄生しますが、カエデ、白樺、ハリエンジェ、ヤナギ、サンザシ、アーモンド、ニレ、まれには樫などにも寄生します。最も多くみられる針葉樹は、スギとトウヒです。Common Mistletoeは、ヨーロッパ全域に成育しますが、南アフリカ、中近東、日本にも生息します。北ヨーロッパにはめったに見られませんが、それはマイナス20度以下の極寒の環境には耐えられないからです。一方では、南方の国々では、過度の日差しと乾燥により生育が制限されます。また、まれな樫のヤドリギは、とりわけフランス全土に見られます。ただ、スイスにおいて繁殖されてもいます。
成長と発育と繁殖において、ヤドリギは多くの特徴において、他の植物とは一線を画します。20世紀初頭、アントロポゾフィーの創始者であるルドルフ・シュタイナーは、このユニークな特徴に注目し、このヤドリギは、適切に調剤され、正しいい脈絡で投与されれば癌の治療薬となる可能性があることを見出しました。

ヤドリギ製剤の効果

 ドリギ抽出液は、生体の異なったレベルへと働きかけます。これから紹介する効果は、研究所の実験における細胞培養においてか、癌患者さんに実際に観察されたかのどちらかに基づいています。一つの代表的なヤドリギ抽出液の効果は、免疫系を活性化する(免疫調整)することです。この結果として、癌細胞を自己崩壊(アポプトーシス)へと誘導し、結果として腫瘍の成長を止めるのを支援したり、正常化するのを手助けします。さらに加えて、ヤドリギ療法は、患者さんのQOL(生活の質)を直接的に改善します。実際、ヤドリギ療法を受けると、患者さんは、体調が改善し、活力が出てきます。また、いくつかの研究結果から、ヤドリギ療法は、生存期間を延長することがわかっています。
   ヤドリギ抽出液免疫系を活性化し、調節します。多くの免疫細胞は、骨髄の幹細胞に由来します。その中には、骨髄とリンパ節のBリンパ球があります。これらは、形質細胞に分化し、特異的抗体を産生します(たとえば、ヤドリギレクチンに対する抗体など)。
 ヤドリギの抽出液は、こうした全ての免疫担当細胞を、増殖させたり、直接に活性化したりします。すなわち、その機能を改善します。これが、いわゆる免疫調節です。ヤドリギ抽出液が注射される時に実際に何が起きているかは、今日まで大雑把にしか知られていません。顆粒球とマクロファージが、この植物の異物的なたんぱく質を察知し、最初に反応します。これらがそのたんぱく質を消化し、その一部を他の免疫担当細胞、特にT細胞とB細胞に提示します。この結果として、サイトトキシンが、放出されます。具体的には、炎症反応を引き起こすような伝達物質で、ヤドリギ抽出液が注射された部位に紅斑が生じます。この情報は、ヘルパーT細胞に伝わり、逆に、B細胞がヤドリギレクチンに対して抗体を産生するよう仕向けます。

   こうした効果の多くは、主に研究室の実験において確認されています。まだ、はっきりしていないことは、どのようにしてこうした効果が、免疫系の反応性や強さに影響するかです。しかしながら、二つのことは知られています。すなわち、ヤドリギ抽出液は、顆粒球、ナチュラルキラー細胞、休眠しているマクロファージなどを活性化するということ。そして、白血球の細胞毒性を増強し、その異物的細胞、おそらくは癌細胞を攻撃する能力を改善するということです。

  3つの代表的なアントロポゾフィー医学に基づくヤドリギ製剤

イスカドール
 イスカドールは、最も頻繁に処方されるヤドリギ製剤です。この製剤は、20世紀初頭にルドルフ・シュタイナー博士とイタ・ベーグマン医師らによって開発されたIscarという世界初のヤドリギ製剤です。イタ・ベーグマン医師は、1935年にアーレスハイム(スイス)に癌研究協会を設立しました。ヒスキア研究所は、この研究協会のもとで、今日に至るまで癌に対するヤドリギ療法の研究と開発に専念し続けている研究センターです。 1950年以来、葉と枝と実から抽出されたこのヤドリギ製剤は、ドイツのSchwäbisch Gmünd,のWeleda社のIscadorという名前のもとで販売されてきました。 ドイツのIscadorでは、様々な宿主に宿るヤドリギの製剤が販売されています。M(mari=りんご)、P(pini,杉)、Qu(quercus,樫)、U(ulmi=ニレ)。スイスでは、A(abietis=トウヒ)も販売されています。
りんごと樫の木を宿主とするヤドリギは、フランスに生息し、トウヒに寄生するヤドリギは、スイスに生息します。樫とニレに生息する宿木は、自然界にはもうほとんど生息しておらず、特にこの目的のためにヤドリギの植林地に栽培されています。このヤドリギの木は、その全体を採取されることはありません。ここ1~2年以内に生育した部分のみ(葉と若い枝と実)採取されます。こうすることで、毎年、若い枝が生育することができるのです。

  Iscadorは、発酵性の水溶性抽出物です。この発酵という方法では、製剤過程において、ヤドリギに由来する乳酸菌が特別に栽培され、ヤドリギ抽出液に加えられます。発酵過程において形成される乳酸菌が、水溶性のヤドリギ抽出物を安定化してくれ、特にヤドリギレクチンに作用します。夏と冬に収穫された抽出液は、特別の方法で同量が混合されます。
2種類のIscador製剤のパッケージがあり、ひとつは、0.0001から20mgまでの特定の濃度だけのもの。もうひとつは、ひとつのパッケージに3種類の濃度の入ったSerie (Serie0,Serie1,Seria2) があります。これらの数字は、各アンプルに含まれている活性成分の含有量を示しているわけではなく、ミリグラム単位で測定される発酵水溶性抽出物を生産するのに使用された原料植物の量を示しています。

  Abnoba viscum
 Abnoba Viscumは、ドイツのPforzheimにあるAbnova社から販売されています。72種類にわたる様々な希釈率があります。やはり、代表的なアントロポゾフィー医学のヤドリギ製剤のひとつです。全てのAbnova社のヤドリギ製剤も、葉と枝と実からの抽出液から作られます。原料のヤドリギは、夏と冬に、それぞれの多様な宿主の木に宿るヤドリギから採取されます。抽出過程が終わった跡に、夏と冬のそれぞれに収穫されたジュースが、収穫時期と宿主に応じて整理され、室温で特別に特許を取得した流出方法のもとで互いに混合されます。この後、ホメオパシー薬局方にのっとって希釈と浸透が実施され、無菌状態下でアンプルに充填されます。
Abnova Viscum の希釈ステージ2のひとつの典型的な特徴は、その黄緑色です。これは、抽出液が脂肪成分、いわゆる小さな泡状の細胞膜脂質(リボゾーム)を含んでいるからです。これらは、自然に生成する植物の細胞膜からなり、とりわけ、脂溶性植物色素、chlorophyllです。
Abnova viscum のヤドリギ製剤は、9種類の宿主から作られます。カエデ、アーモンド、白樺、セイヨウサンザシ、トリネコ、リンゴ、樫、トウヒ、スギです。  

  Helixor
この製剤は、新鮮な若いヤドリギ(葉、枝、花、実)の水溶性抽出液です。1年に4回(冬、春、夏と秋)収穫することで、この植物の異なった成育段階を生か そうとしています。このヤドリギは、毒性成分の含有を検査したうえで、手作業で機械的に細かくされます。14度から20度の間の温度で、水様性抽出物となり、その後特殊なフィルターへと導かれます。
一部は、夏の抽出液(夏と秋の収穫物)で、他は、冬の抽出液(冬と春の収穫物)は、混合され、特殊な流動過程を経て安定化されます。こうしてえられた抽出液は、原料植物の初めの量に関連して、生理食塩水で様々な最終濃度(1Lあたり0.01~50mg)へと希釈されます。
様々なHelixor製剤が入手可能です。A(リンゴ)、M(トウヒ)、P(スギ)
これは、ドイツのRosenfeldにあるHelixor社によって販売されています。

代表的な含有成分  ヤドリギレクチンとビスコトキシン

ヤドリギレクチン
細胞毒性効果
 ヤドリギ療法の初期には、毒性の細胞破壊的効果に注目しますが:その後は、免疫制御のほうに比重が移ります。
ヤドリギレクチンには、全部で20種類の異なった種類がありますが、そのうち最も重要なのは、ヤドリギレクチンⅠ、Ⅱ、Ⅲです。ヤドリギレクチンは、糖タンパクで、この形では、ヤドリギにのみ、古い枝やsinker,すなわち植物の中心に特に多く含まれます。レクチンの含有量は、冬に最も多いです。若葉と若枝に最も濃度が高いです。レクチンは癌細胞の成長を阻害し破壊します。すなわち、それは“細胞静止的”かつ、“細胞毒性的”効果をもちます。そして、免疫系全体(免疫制御)に影響を与えます。ヤドリギレクチンには、3つの異なったグループがあります。ヤドリギレクチンには、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを含めて20種類以上のそれぞれ独自の構成成分があります(イソレクチン)。こうした構成要素の割合は、宿主により、また季節ごとに変動します。たとえば、杉を宿主にするヤドリギでは、とりわけレクチンの含有量が少ないです。それには、ヤドリギレクチンⅢは有しますが、ヤドリギレクチンⅠは、実際まったく含有していません。最も高濃度のレクチンを含有するのは、樫、ポプラ、ボタイジュ、トリネコであり、ヤドリギレクチンⅠが最も多く含まれています。りんごの木を宿主とするヤドリギのレクチン含有量は、11月から1月にかけてもっと高く、雌性の木は、雄性の木よりゆり多く含まれます。りんごの木を宿主とするヤドリギの実は、ヤドリギレクチンを例外なくレクチンⅠを含有しています。その科学的構成成分においては、全てのレクチンは、A鎖、B鎖、二つの細胞鎖からなっています。これら同士は、硫黄的な成分(2硫化橋)の橋で互いに結合しています。A鎖は、毒性の(細胞毒性的)効果に関与し、B鎖は、標的細胞群とその表面構造との接触を確立します。ヤドリギレクチンⅠとⅢとでは、その結合力に大きな違いがあります。その結合力は、腫瘍細胞群が、どのような糖成分を含むのか、レクチンのB鎖どのようにそれらと結合するかにかかっています。これがたぶん、なぜ様々な宿主のヤドリギ抽出液が、様々の異なる腫瘍に対して特有の効果を発揮するのかに対する、説明づけのひとつでしょう。
 ヤドリギ療法の初期には、毒性の細胞破壊的効果に注目する:その後は、免疫制御のほうに比重が移ります。
 ヤドリギ療法の開始から2~6週間以内に細胞毒性的な効果は後退します。なぜなら、この間に、生体は、ヤドリギレクチンと戦う抗体を形成し、ヤドリギレクチンの異物的なたんぱく質と結合しようとすることで、結果としてそれを無毒にするのです。これらの抗体は血中の、糖分、たんぱく質、脂肪などの構成成分などと協同してレクチンを攻撃するので、その過程で本来の細胞破壊的な作用を失うのです。もしもこれが起きなかったら、ヤドリギレクチン製剤に対する長期的な耐性が形成されないのです。こうした理由で、ヤドリギ製剤は、はじめは、ごく少量から投与され、治療経過中にごく段階的に増量するという方法をとるのです(投与法を参照)
 全てのレクチンは、癌細胞に自身の死を導くように誘導することができる。こうした、”アポプトーシス“は、健全な細胞群では、可能であり、かつ必要なのです。一方では新たな細胞群が常時産生され、他方では古い細胞群が死んでいきます。細胞死と、細胞分裂との間には、均衡が取れています。癌細胞ではこのアポプトーシスという能力が失われています。それ故に、癌細胞は野放しに再生を繰り返し、無制限に増殖するのです。もし、癌細胞がアポプトーシスの能力を取り戻すなら、癌の増殖は制御され、腫瘍は成長をやめ、退縮します。
 ここで注意が要るのは、こうした経過は、そう簡単に首尾一貫して機能するものではありません。たとえば、ヤドリギレクチンのどのメカニズムが細胞死の引き金になるのかといった点は、まだ明らかになってはいません。
 さらに、必ずしも、全ての腫瘍が、ヤドリギレクチンに対して常に同じように作用するわけでもなく、また、必ずしも全ての腫瘍が、それを同じ様なレベルまで結合するとは限らないのです。さらには、このレクチンは、癌細胞群に対して何らかの効果を及ぼす前に、まずはレクチンが腫瘍に到達する必要があります。したがって、手術不能の腫瘍の場合、ヤドリギ抽出液を腫瘍内に直接的に注射されますし、癌細胞を含んだ液体の集積が生じた場合、たとえば肺と胸膜の間、あるいは腹腔内、膀胱がんなどの場合には膀胱、などに注射することもあります。

ビスコトキシン
 ビスコトキシンは、レクチンについでヤドリギの重要な成分としてよく見られます。化学的構造においては、それは、蛇毒に類似した淡白含有複合成分です。様々な宿主から採取されるヤドリギは、異なる比率でビスコトキシンを含んでいます。この事実が、宿木抽出液の効果にどれほど重要かについては、まだ十分に明らかになってはいません。
 ビスコトキシンが最も多く含まれるのは、とても若い葉や、幹や枝や、開花する芽(実も含む)、すなわち、植物の外縁、抹消です。中心には、ビスコトキシンは含まれていません。ビスコトキシンは、6月と7月に最も多く含みます。したがって、夏の収穫物は最も多くのビスコトキシンを含み、冬に収穫されたヤドリギ、ほんの少量しかビスコトキシンを含んでいません。ヤドリギのビスコトキシンの含有量は、そのレクチンの含有量とは、反周期的、対極的なのです。こうした含有成分の違いが、なぜアントロポゾフィー処方製剤では夏と冬の抽出物を混合して使用するひとつの理由です。ビスコトキシンは、レクチンのように免疫系を活性化します。とりわけ、細胞障害性T細胞や顆粒球の活動を強め、細菌(そして、おそらくは癌細胞も)を攻撃する能力の改善を助けます